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賞金の罠 それ一時所得?

2021年夏に東京オリンピック、2022年冬に北京オリンピックが開催されましたが、来年2024年にはパリオリンピックが開催予定とのことで、あっという間という気が致します。各スポーツ団体においても選考の大会が実施され、誰が代表者になったかという話を聞くようになってまいりました。
今回はオリンピックが近いこともあり、スポーツだけではなく様々な大会で個人が受け取る賞金が、一時所得・雑(事業)所得のいずれに該当するのか?について解説していくことに致します。

国税庁HPの質疑応答事例に「マラソン大会の賞金・褒賞金の課税関係」として所得分類の考え方が示されております。
従来、賞金と言えば一般的に一時所得と考えられていたものですが、その考えに対する注意喚起としてオリンピック前に提示したものと思われます。
この質疑応答事例を読み込むと、所得分類の判定に当たっては賞金の特性からアプローチするという従来的思考より、資金の流れ(主催者)をキッチリ解明する必要性を感じます。
質疑応答事例ではマラソン大会とあるようにスポーツ大会について述べておりますが、「スポーツ」「大会」という名称に限定されるものではなく、趣味のものや、コンテスト、イベントという名称でも賞金が出れば同様の取扱いとなります。また、賞金支払者が公益法人等に限定されるものではなく、株式会社であっても何ら変わりません。
ネットで検索してみますとゲーム大会などのeスポーツの他、釣りやサバゲー、漫画、俳句、童話、焼肉・ラーメンなどの料理、カラオケ、映像など様々な大会賞金があることが分かります。
もちろん国内・国外どこで開催されようとも賞金を受け取れば課税の対象ですし、名称の如何で一時所得か雑(事業)所得かを判断することは誤りやすい事例と言え注意が必要です。
特に賞金支払者から受け取った書類に一時所得と記載があったとしても、記載者が税金のプロである保証は全くありません。誤っているケースもありますから、慎重な対応が必要になります。

それでは具体的に確認していきましょう。
まず、オリンピックについてですが、これは全額又は上限額の範囲で非課税とされておりますが、これは賞金の特性(国民感情等考慮)から非課税とされた経緯がございます。
質疑応答事例は賞金の特性ではなく資金の流れを見ておりますから、どのような流れになっているのかを確認する必要があります。特に支払い理由・性質が同一の記録更新を讃える賞金であっても、主催者か否かで所得分類が異なると明示している点は注目すべきところです。
それでは東京オリンピックを例に賞金が何所得に分類されているのかを見ていくことに致します。
東京オリンピックの主催者が誰であるかですが、この主催者の判断が重要になります。東京オリンピックはIOC(国際オリンピック委員会)が主催者です。JOC(公益社団法人日本オリンピック委員会)でも東京都でもありません。
次に賞金がどの団体から選手に支払われているのか?これは「オリンピック競技大会及びパラリンピック競技大会優秀者顕彰規程」に定められており2パターンあります。ひとつはJOC、もうひとつはJOC加盟団体。JOC加盟団体とは日本水泳連盟や全日本柔道連盟、日本スケート連盟など老舗スポーツ団体はもちろん、日本サーフィン連盟や日本山岳・スポーツクライミング協会など東京オリンピックから初参加となる団体も加盟しております。
つまり、オリンピックの賞金は主催者のIOCではなくJOC(公益社団法人日本オリンピック委員会)やJOC加盟団体が金・銀・銅を獲得した選手に交付しているのです。
ここで国税庁の質疑応答事例に戻りますが、主催者以外から支払われる賞金は「JOC又はJOC加盟団体が金・銀・銅メダルを獲得した選手を表彰するために支払われるものであり、JOC又はJOC加盟団体に対する役務の対価として支払われたものとは言えず、また継続して支給されるものでもないことから、一時所得に該当します。」と読み替えることが出来ます。
次に各スポーツ団体で開催される世界大会を見てみましょう。これは各団体ごとケースバイケースとなりますので、賞金の流れをしっかり追わなければなりません。
例えばAというスポーツ競技の国際A連盟が世界大会の主催者だとします。毎年各国で大会を開催しますが、各国のA連盟(主催者以外)が日本の連盟を経由して入賞者に賞金を支払うのであれば一時所得になりますが、国際A連盟(主催者)が日本の連盟を経由して入賞者に賞金を支払うのであれば雑(事業)所得となります。支払調書が日本円だと一時所得と勘違いしてしまいますが、現地通貨で日本の連盟を経由して支払われるケースがありますから、その点は注意が必要です。
質疑応答事例に当てはめますと「主催者である国際A連盟から支払いを受けた賞金は、国際A連盟に対する役務の対価又はその役務に付随して取得するものと認められることから一時所得には該当せず雑所得に該当する」と読み替えられます。

最後に運動とは異なる釣りやゲーム大会を例にしてみますと、主催者は釣具メーカーやゲーム制作会社であると考えられますが、中には他のスポンサーからの賞金もあるでしょう。
この場合、一つの大会賞金であっても主催者のメーカーから支払われる賞金は、主催者に対する役務の対価又はその役務に付随して取得するものと認められることから雑(事業)所得、他のスポンサーから支払われるものあれば一時所得に区分されることになります。